おすすめの一冊♪ 「悲しみよ こんにちは」フランソワーズ・サガン / 1954年
”物憂さと寂しさがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しく立派な名をつけていいものか、私は迷う”
かの有名な、「悲しみよこんにちは」の冒頭の有名な一文。
すると何かが私の中に湧きあがり、私はそれを、眼をつぶったままその名前で迎える。かなしみよ こんにちは
そしてこれが、有名なラストの文章。
作者はフランスの女流作家、フランソワーズ・サガン(1935年6月21日- 2004年9月24日)。
「ブラームスはお好き」や「愛の中のひとり」などの名作を多数生み出した彼女の代表作といえば、やはり「悲しみよこんにちは」だろう。
戦後しばらくのフランス。
裕福な家庭の17歳の少女、南仏の別荘で父と夏休みを過ごす。少女の母は亡くなって、父はその旅行に三十路の愛人を同行させた。
3人は刹那的な毎日を送り、時間を浪費する。そのうち、少女は少し年上のハンサムな青年と恋仲になる。
少女は暇を持て余すように、海で泳ぎ、着飾ってパーティに出向き、昼過ぎに起きて青年に連絡をし、父やその愛人に愛想よく接する。
何不自由なく満ち足りた生活に転機が訪れたのは、亡き母の友人で少女とも面識のある中年女性が、彼らのもとへ現れたときのことだった。
年相応に美しく教養のあるその女性に、父は心を惹かれていく。父がこれまで相手をしてきた美貌だけが取り柄の愛人たちは、持ち合わせていない繊細さと知性だった。
女性は真面目で冷たい表情ながら、父に好印象を抱く。
少女は誰よりも早く、その事実に気づく。そして、その満ち足りた現状の平穏を乱すであろう事実に、途方もない不安と不快感を抱く。
少女は父を中年女性に奪われないよう、父の愛人と自分の恋人が付き合っているように見せ、父の自尊心をくすぐり闘争本能と独占欲を擽る作戦にでる。
父は、聡明な大人の女性と美貌の愛人との間で揺れ動く。最終的に父は、中年女性にプロポーズをしながら、別れたはずの愛人と関係を持ってしまう。
父の裏切りを知った女性は、少女たちを置いて南仏を去る。
自身の握るハンドルで帰路につく道中、中年女性は自損事故を亡くなってしまう。
狡猾な少女の、けれど年相応に稚拙なたくらみは、聡明な女性を失ったことで結末を迎える。
ぽっかりと心に穴の開いたような喪失感を持て余しながら、少女は自身を襲う感情に名前を付ける。
かなしみよ こんにちは。
こんなに緻密で魅力的なプロットを、当時18歳の少女が書き上げたなんて。
驚きと感嘆が漏れますね。
美しく引き込まれる心情描写に、奔放でその様を隠そうともしない不道徳なブルジョアシーの親子、衝撃的な喪失感を伴うラスト。
サガンの文章力、構想力、発想力に、世界中が驚き、たちまちベストセラーとなりました。
一躍時の人となり億万長者となったサガンは、「悲しみよ こんにちは」の世界観と同じく、刺激的で波乱万丈な人生を送ります。
はいて捨てるほどの財産を築いたにもかかわらず、持ち前の享楽的で刹那主義の性格も相まって、晩年は無一文状態になってしまい、知人に身の回りの世話や金銭的援助を受けていたり。
かと思えば、ギャンブルにめっぽう強い面もある。カジノで勝ったお金で別荘を一括購入したり、友人たちに気前よくプレゼントを渡して回ったことも。
恋愛面では、数度の離婚歴や奔放な私生活から、スキャンダルの的でもあった。
それでも彼女の紡ぎ出す文章はどれも魅惑的で情緒豊かで、誰もが彼女の紡ぎ出す世界に熱中した。
知れば知るほど、読者はフランソワーズ・サガンの魅力にはまってしまいます。
この文章を書いている私、ハミングもそのひとりです。
有り触れた感想ですが、本書「悲しみよこんにちは」は、日本語の訳もとても読みやすく、理解しやすい情緒的な1冊で、古典に興味がある方に本当におすすめです。
これまでサガンを読んだことのない方、読書自体に慣れ親しんでいらっしゃらない方にも、非常にフレンドリーな本です。
個人的にも、サガンを読んだことのない友人に本書を貸してみたのですが、「読みやすかった!」と好評でした。
お時間がある際に、手に取ってみられてださい。
時間が無駄になったと後悔するようなことは、きっとないと思います。
書評およびハミングの感想は、以上となります♪
最後までお読みいただき、ありがとうございました!